
保護者・支援者・教育者のための
発達障害のある
子どもたちの
理解と支援ガイド
「認めて、褒めて、大事にする」
心の支援のすべて
はじめに
発達障害は、生まれつきの脳機能の発達の偏りによるものであり、本人の努力不足や育て方の問題ではありません。発達障害のある子どもたちは、その特性ゆえに、日常生活や集団生活の中で様々な困難に直面することがあります。
本ガイドは、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)の特性を年齢別に理解し、二次障害への進行を防ぎ、子どもたちの心を健やかに育むための支援の方法をお伝えします。
発達障害の支援とは、「できないことをできるようにする」ことだけではありません。子どもの心に寄り添い、その存在を丸ごと認め、安心して成長できる土壌を耕すことが、支援の本質です。

第1章
自閉スペクトラム症(ASD)の理解
ASDとは
ASD(自閉スペクトラム症)は、「対人関係やコミュニケーションの困難」と「限定された興味・関心やこだわり」を主な特性とする発達障害です。「スペクトラム(連続体)」という名称が示す通り、特性の強さや組み合わせは非常に多様です。
ASDの特性は生涯にわたって続くものですが、その現れ方は年齢や環境によって変化します。適切な支援によって困りごとが軽減されることもあります。
年齢別に見るASDの特性
乳幼児期(0〜5歳)
特性が最初に気づかれやすい時期
名前を呼んでも振り向かない、視線が合いにくい、指さしをしない、一人遊びを好むといった傾向が見られることがあります。
言葉の発達では、発語の遅れや、会話のやり取りが成立しにくい場合があります。オウム返し(エコラリア)が多い、独特な言い回しを使うといった特徴も見られます。
感覚の過敏さや鈍麻、日常のルーティンへの強いこだわりも、この時期の特徴です。
学童期(6〜12歳)
集団生活で特性が顕著に
「暗黙のルール」や「空気を読む」ことが求められる場面が増え、大きな壁となります。悪気なく相手を傷つける発言をしてしまったり、一方的に自分の興味のある話題を話し続けてしまうことがあります。
学習面では、興味のある分野では驚くほどの集中力を発揮する一方、興味のない分野には取り組めないという「ムラ」が見られます。曖昧な指示の理解も難しい場合があります。
思春期(12〜18歳)
自己理解と葛藤の時期
周囲が複雑な人間関係を築く中で、自分だけが「違う」という感覚を強く持つようになることがあります。周囲に合わせようと過剰に努力する「過剰適応」の状態に陥るケースも少なくありません。
将来への不安も強まりやすい時期です。進路選択や就労に対する漠然とした不安を抱えながらも、それを言葉にして相談することが難しいという困難さがあります。
ASDの年齢別まとめ
| 年齢段階 | 主な特性 | 気づきのポイント |
|---|---|---|
| 乳幼児期 | 視線が合いにくい、一人遊びを好む、言葉の遅れやオウム返し、感覚過敏 | 健診での指摘、保育園での集団行動の困難 |
| 学童期 | 暗黙のルールの理解困難、友達関係のトラブル、興味の偏り | 対人トラブル、学習面のムラ、集団活動への不適応 |
| 思春期 | 複雑な人間関係への困難、過剰適応と疲弊、将来への不安 | 不登校傾向、心身の不調、自己肯定感の低下 |

第2章
注意欠如・多動症(ADHD)の理解
ADHDとは
ADHD(注意欠如・多動症)は、「不注意」「多動性」「衝動性」を主な特性とする発達障害です。脳内の神経伝達物質の働きの偏りに起因すると考えられており、本人の性格や意志の問題ではありません。
不注意が優勢なタイプ、多動性・衝動性が優勢なタイプ、混合タイプがあります。多動性は成長に伴い目立たなくなる傾向がありますが、不注意や衝動性は大人になっても持続することが多いとされています。
年齢別に見るADHDの特性
乳幼児期(0〜5歳)
「活発な子」との区別が難しい時期
じっと座っていることが極端に苦手で、食事中も立ち歩いてしまう、高いところに登りたがる、道路に飛び出すなどの危険行動が見られることがあります。
保護者にとっては「目が離せない」「何度言っても聞かない」という状況が続きますが、これは子どもの脳の特性によるものであり、しつけの問題ではありません。
学童期(6〜12歳)
学校生活で最も顕在化しやすい時期
授業中に席を立ってしまう、おしゃべりが止められない、忘れ物や紛失物が多い、宿題に取りかかれないといった行動が目立つようになります。
この時期に特に注意すべきなのは、叱責を受ける機会の多さです。「何度言ったらわかるの」という言葉を繰り返し浴びることで、子どもの自己肯定感が著しく低下するリスクがあります。
思春期(12〜18歳)
実行機能の困難が顕在化
多動性は外見上は落ち着いてきますが、内面的な落ち着かなさは持続します。提出物の管理、時間管理、計画的な行動といった「実行機能」の困難さが学業や日常生活に大きな影響を及ぼします。
幼少期からの叱責や失敗体験の蓄積により、うつ状態や不安障害といった二次障害が発症しやすくなります。
ADHDの年齢別まとめ
| 年齢段階 | 主な特性 | 気づきのポイント |
|---|---|---|
| 乳幼児期 | 極端な落ち着きのなさ、危険行動の多さ、興味の移り変わりの速さ | 集団活動への参加困難、安全面での心配 |
| 学童期 | 離席・おしゃべり、忘れ物の多さ、衝動的な行動 | 学業成績の低下、友人トラブル、叱責の増加 |
| 思春期 | 内的な落ち着かなさ、実行機能の困難、衝動的行動のリスク | 自己肯定感の低下、不安・抑うつの出現 |
コラム:見過ごされやすい女性のADHD
女性のADHDは「多動性」が目立たず「不注意」が中心に現れることが多いため、「おとなしいけれど少しぼんやりしている子」と見なされ、気づかれにくい傾向があります。進学、就職、結婚、育児といったライフステージの変化に伴い困難さが顕在化し、大人になってから初めて診断されるケースも少なくありません。

第3章
二次障害の理解と予防
二次障害とは
二次障害とは、発達障害の特性そのものではなく、特性と環境とのミスマッチや、周囲からの不適切な関わりが続くことによって後天的に生じる心理的・社会的な問題です。
発達障害のある人のうち、ASD群で47.8%、ADHD群で59.9%が「自己肯定感が低い」という困りごとを抱えています。この自己肯定感の低下こそが、二次障害への入り口です。
二次障害に至る「負のサイクル」
失敗体験の蓄積
「みんなができることが、自分にはできない」という経験が積み重なる
周囲の否定的な反応
「なぜできないのか」「努力が足りない」と叱責・誤解される
自己肯定感の低下
「自分はダメな人間だ」と思い込み、自信を失っていく
二次障害の発生
不安、抑うつ、引きこもり、反抗的な態度などが生じる
悪循環の強化
二次障害による行動が「問題行動」と捉えられ、さらなる否定を招く
二次障害の種類と特徴
内内在化障害
問題が自分自身の内側に向かう。心の苦しみを内に抱え込む傾向。
サイン:表情が暗くなる、口数が減る、「どうせ自分なんか」という発言、体調不良の訴えが増える
外外在化障害
問題が他者や社会など外側に向かう。怒りや不満を行動で表出する傾向。
サイン:攻撃的な言動が増える、ルールを意図的に破る、物を壊す、自分を傷つける
年齢別に見る二次障害のサイン
| 年齢段階 | 注意すべきサイン |
|---|---|
| 幼児期 | 新しいことへの挑戦を極端に嫌がる、「できない」「むり」が口癖に、かんしゃくの頻度が増える |
| 学童期 | 「どうせ僕はダメだから」という発言、学校の話をしたがらない、原因不明の体調不良 |
| 思春期 | 将来への絶望感、極端な完璧主義または無気力、自傷行為、昼夜逆転、不登校 |
二次障害の予防:自己肯定感を守る5つの柱
早期の気づきと正しい理解
「なぜできないのか」ではなく「何が難しいのか」という視点で子どもを見つめ直す
環境調整
特性に合わせた配慮で、安心して力を発揮しやすい環境を整える
肯定的な関わり
存在そのものを認め、努力や成長のプロセスを褒める
成功体験の積み重ね
スモールステップで「できた!」を意図的に増やす
安心できる人間関係
失敗しても受け止めてもらえる「安全基地」を築く

第4章
心を育む支援「認めて、褒めて、大事にする」
その1
「認める」:存在そのものを肯定する
ありのままを受け入れる。「○○ができなくても、あなたのことが大好きだよ」という姿勢で接することが大切です。他の子と比較せず、その子なりの成長のペースを尊重しましょう。
感情に寄り添う。「そうか、悔しかったんだね」「悲しかったね、よく話してくれたね」と、まずは共感の言葉をかけましょう。
特性を「個性」として捉え直す。こだわりの強さは「物事を深く追求する力」に、多動性は「行動力やエネルギーの豊かさ」に読み替えることができます。
その2
「褒める」:効果的な褒め方
「字を一画一画丁寧に書けたね」
「すごいね」「えらいね」
「最後まで諦めずに取り組んだね」
「100点でえらい」
「片付けてくれて助かったよ」
「頭がいいね」
その場で「今の、とても良かったよ!」
タイミングを逃してしまう
「ありがとう、嬉しいよ」
「よくできました」
褒め方の実践例
場面:宿題に取り組んだが、途中で集中が切れてしまった場合
「また途中でやめたの?最後までやりなさい」
「15分も集中して取り組めたね。前より長くなったよ。少し休憩してから続きをやろうか」
その3
「大事にする」:かけがえのない存在だと伝える
愛情を言葉で伝える
「大好きだよ」「あなたがいてくれて嬉しい」と日々伝えましょう。感覚過敏のある子には、その子が心地よい方法で。
話に耳を傾ける
途中で遮らず最後まで真剣に聞く姿勢が、「自分は尊重されている」という感覚を育みます。
一緒に時間を過ごす
一緒に笑ったり遊んだりする時間が心の栄養に。「あなたと一緒にいる時間が楽しい」というメッセージを。
「好き」を一緒に楽しむ
興味を「こだわり」として否定せず、一緒に楽しむことで自己肯定感が高まります。
支援者自身のケアも忘れずに
一人で抱え込まず、家族や同僚、専門機関と悩みを共有しましょう。ペアレント・トレーニングや保護者同士の交流会への参加も効果的です。
「完璧な支援者」を目指す必要はありません。「子どもの味方でいよう」という気持ちを持ち続けることが、何よりの支援です。
おわりに
子どもの心に寄り添い続けるために
発達障害のある子どもたちの支援において、最も大切なことは何でしょうか。それは、テクニックや方法論以前に、「この子の味方でいよう」「この子の存在そのものを大切にしよう」という姿勢を持ち続けることではないでしょうか。
子どもたちは、自分のことを理解し、認め、大切にしてくれる大人の存在を通じて、「自分には価値がある」「自分は愛されている」という感覚を育んでいきます。この感覚こそが、困難に立ち向かう力の源泉であり、二次障害を防ぐ最も強力な盾となります。
完璧な支援を目指す必要はありません。うまくいかない日があっても、自分を責めすぎないでください。大切なのは、子どもの心に寄り添い、「あなたの味方だよ」というメッセージを伝え続けることです。
子どもたちは、「できるようになること」だけで自信を持つのではありません。「できなくても大丈夫」「そのままのあなたが大好き」と言ってもらえる経験を通じて、初めて本当の自信を手にするのです。
著者紹介
津守 慎二
Shinji Tsumori
現在の主な役職
経歴・活動実績
1987年〜
高校教員免許を取得後、岡山県内の複数の専門学校で講師を担当。
2011年
知人の紹介で発達障がい児支援施設を見学し、社会における発達支援の重要性を知る。
2012年
岡山県倉敷市に児童発達支援・放課後等デイサービス「学習支援レインボー教室」を設立。
現在の活動
約250名の子どもたちを支援する教室運営を行うかたわら、指導者の養成や全国での講演活動に尽力。これまでに1万5千名以上の発達障がい児支援者に向けてセミナーを開催しています。また、発達検査(WISC-Vなど)の読み解きや、学校への情報共有をサポートする個別相談(ZOOM等)も実施しています。
専門分野
モットー
「認めて・褒めて・大事にする」
著書
『発達障害支援は心の支援だった』